ペリドットの瞳。
                氷高颯矢

彼女の髪は燃えるような赤。緋色、火の色。
だが、その心は氷。
永遠に届かない、つれない女――。


闇の中、ふと目を開ける。傍らに燭台の炎がかすかに揺れる。
「夢…」
ゆっくりと起き上がる。長い髪を掻き揚げ、くつくつと嘲笑う。
「僕にも古傷というものはあるらしい…」
ふいに気配を感じた。
「アルディアス、何を笑っている?」
「…ディスガルト。こんな夜更けに訪問とはどういった用件かな?」
現れたのは細身で長身の男。藤色の髪にアメジストの瞳。
「兄に対して随分だな…まぁいい。お前に言っておきたいことがある。母上が亡くなられた。魔王を弑するつもりだったようだが、あの氷の神官に邪魔をされてね。あとはいくらでも母上の事を憎んでいるものはいるから…」
母親の姿を思い浮かべるだけで心の中が火が付いたように灼け付く。不機嫌に眉を寄せるアルディアスに、ディスガルトはその右手を取るとその手にペンダントを握らせた。金の鎖にペリドットが輝く。それはいつもディスガルトが身につけているものだった。
「最期まで、恐ろしいほど美しく、愚かな女だった」
「魔王を殺したいほど愛し、殺したいほど憎んだ――」
「そう、赤雷のアルヴィナとは四天王である以上に『女』だった。最低の母親だった。だから感傷はしない。俺は復讐を遂げたんだから…」
 ディスガルトは微笑んだ。
「ディスガルト?」
「アル…お前の瞳は誰にも似ていない。この宝石と同じ輝きだ。俺は、あの女と共に堕ちる――お前はお前だけを主として生きろ…」
 崩れるディスガルトの体を支える。腕を背に回すと指先にぬるりとした感触があった。
「ディスガルト?お前…」
「お前の心、貰っていこう…」
「――っ?!」
 アルディアスの腕の中でディスガルトは息絶えた。

紅い赤い花びらが落ちている。
はらり、はらり。
指先を朱に染めるこの温もりは何故消えない?


どれくらい時間が経ったのだろう。アルディアスは冷たくなったディスガルトの身体を抱いて放心していた。朝日が部屋を照らし始める。赤い花びらがいくつも降っていた。
「ふ…はははははっ、そうだよ。最初からこうしていれば良かったんだ。ディスガルト、貴方が最期に映したものは僕。あの女に全て奪われたと思っていた。でも、違った。貴方は二度とあの女を映さない。貴方は僕のものだ」
 うっとりと死体に頬を寄せる。
「今ならあの女を理解できる。永遠を望むのは愚かだが、永遠を手に入れる事はこんなにも容易い…」

君の心を攫ってしまおう。
その瞳に射貫かれて死ぬなら喜んでこの身を捧げよう。
君の望む永遠を与える事は出来ないけれど、
君の中で永遠なるものになろう。
揺れる事の無い眼差しに宝石の煌きを、
失った心に融けない魔法を、
君の下に全てが跪くその日まで――。


さんたろ〜氏のリクエストで「アルディアスかカイザーの出てくる小説」という事でパッと思いついた話がアルディアスの方だったので書いてみました。
意外かもしれませんが、アルディアスは一人っ子じゃありません☆
今回出ているディスガルトは正真正銘、彼の兄です。
観月先生の世界では恐らく存在しませんが、僕の中でアルディアスの心に住み付いている唯一の良心が彼、ディスガルトの存在だと思うのです。
お話の補足説明ですが、ディスガルトを殺したのはアルディアスです。トドメを刺したのが、ですね。
アルディアスの女嫌いは母親の存在が大きいと思います。
子供を産み捨てるようにして尚且つ魔王を狂おしいほどに愛した女。
『赤雷のアルヴィナ』
ディスガルトは母親として憎みつつ女としては惹かれていたのでしょう。
それがアルディアスには気に食わない。
とにかく複雑な人なんですね、アルディアスって奴は。
ジェイドに執着するのも母親と同じ赤い髪だからなのか、
過去の自分を思い出させるのがイヤだからかなのか…謎。
こんなしょぼい小説ですいません。